医療ドラマや小説はあまり好きではないですが、海堂尊さんの「チームバチスタの栄光」は高く評価しています。
現役のドクターが書いたということで、大学病院の実態がうまく描写されています。
少し前の小説なので多少内容もバラします。
バチスタというのは心臓手術の名前です。この手術が非常に得意だと評判の心臓外科医のチームで、術中死が何例か起きます。
元々難易度の高い手術なので、割合からすると死亡率がそう高くなったわけでもないが、術者である心臓外科医には違和感がある、というのです。
長年の経験から、難しい手術だったとか、今回はうまくいかないかも、というのは自分でわかるが、成功すると思っていた症例での死亡が増えていておかしい、との言い分です。
少しネタバレになりますが、この心臓外科医は実は目の病気が進行しており、そのために腕が落ちたのかもしれないと人知れず悩んでいます。ただ、全体に手術のレベルが下がったということもなく、成功例は素晴らしい手術ができており、自分でもよくわからないのです。
更に、看護師が結婚退職しメンバーが入れ替わったため、チームワークが乱れたのでは、という疑いもあります。
それと、チームの誰かが悪意を持って手術中に何らかの操作を行って殺人を行っている、という可能性があります。
その調査を院長から内密に頼まれたのが主人公の心療内科医です。
この小説では、患者の死亡原因を突き止めるためにかなり重要な部分が、医学的知識がなければ絶対にわからないため、大抵の読者に対してフェアではありません。なので、推理面では高い評価をつけることができません。
しかしながら、最後の最後まで私は「事故か、殺人か」がわからず踊らされましたし、人間ドラマとしては非常に面白かったです。
そして、この小説が優れていると思うのは、主人公が心療内科医であるために外科系の知識に乏しく、前述の死亡原因について思いつかないという点で、読者と同レベルという事です。
一般の方は「いくら専門外といっても、医者なのにわからないの?」と思うかもしれませんが、大学病院の心療内科医なら、あるあるです。そのリアルさが正直だと思いました。